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だれがそれを最初に行なったか

だれがそれを最初に行なったか

第12章

だれがそれを最初に行なったか

1 一生物学者は人間の発明家たちについて何と述べましたか。

 「我々は自分たちが思っているような,いろいろな物事の創始者ではないのではないかと,わたしは考えている。我々はただ,既にあった物事を繰り返して行なっているにすぎない」と,一生物学者は述べました。1 多くの場合,人間の発明家は,植物や動物がこれまで幾千年も行なってきた事柄をただ繰り返しているにすぎません。こうして生物を模倣することは非常に広く行なわれており,それには,生物工学<バイオニクス>という名前さえ与えられています。

2 人間の工学技術と自然の技術とについて別の科学者はどんな比較をしましたか。

2 別の科学者は,人間の工学技術のほとんどすべての基礎的な分野は「生物によって既に開発され,有効に利用されていた。……それは人間の知能が,それらの機能を理解し,修得するようになる以前のことであった」と述べています。興味深いことに,その科学者はさらにこうも述べています。「多くの分野で,人間の工学技術はいまだに自然界よりずっと遅れをとっている」。2

3 バイオニクスの例について考える際,どんな問いを念頭に置くべきですか。

3 発明家たちが模倣しようと努めてきた,生物の持つこれらの複雑な能力について考えてみるとき,それらがすべて偶然によって生じたとするのは,道理にかなったことと言えるでしょうか。しかも,ただ一度ではなく,相互の関連のない生き物のあいだで何度も生じているのです。そのように入り組んだ設計は優秀な設計者だけがなしうるものであることを,わたしたちは経験によって学んでいるのではないでしょうか。才能のある人々が後になってようやく模倣できるようになった物事を,ただの偶然が造り出せたということを,あなたは本当に信じることができますか。このような問いを念頭に置いて,以下の例について考えてみてください。

4 (イ)シロアリはどのようにして自分の住まいに冷房を施していますか。(ロ)科学者はどんな問いに答えることができませんか。

4 空調設備。現代の工学技術によって多くの家には冷房設備が施されています。しかし,それよりずっと前から,シロアリの仲間は自分の住まいに冷房を施しており,今でもそれを行なっています。彼らの巣は大きな土塁の中央部にあります。温まった空気はそこから上にのぼっていって,網の目状になった,表層近くの気道に入ります。古くなった空気はそこから通気性のある外壁を通って拡散し,同時に新鮮な冷たい空気がしみ込んできて,土塁の下部にある気室に入ります。冷たい空気はそこから巣の中に循環してゆきます。土塁によっては,底の部分に幾つか穴があいていて,そこから新鮮な空気が入るものもあり,また暑い季節には,地下から引き込まれた水が蒸発して空気を冷やす仕組みにもなっています。どのようにして幾百万匹もの盲目の働き手がその努力を統一して,このように工夫に富み,立派に設計されたものを建設するのでしょうか。生物学者ルイス・トーマスはこう答えています。「彼らが集団的な知恵のようなものを発揮するというまぎれもない事実,これは神秘である」。3

5-8 飛行機の設計者たちは鳥の翼からどんな事を学んできましたか。

5 飛行機。飛行機の翼の設計は,多年にわたり,鳥の翼を研究することによって多くの益を得てきました。鳥の翼の湾曲のぐあいは,重力による下への引っぱりに打ち勝つために必要な浮力を作り出しています。しかし,翼があまり上向きになると,失速の危険があります。失速を防ぐため,鳥の翼には,その最前部である前縁のところに,翼の傾きが増すにつれて飛び出てくる数列の羽毛,すなわち下げ翼のようなものがあります(1,2)。これらの下げ翼は,空気の主な流れが翼面から離れないようにすることによって浮力を維持します。

6 乱気流に対応し,“失速墜落”を防ぐためのもう一つの特色は,小翼(3),すなわち,鳥が自分の親指のように持ち上げることができる小さな羽毛の束です。

7 鳥の場合にも飛行機の場合にも,翼の先端部では小さな渦ができて,それが飛行に対する抵抗力となります。鳥は二つの方法でこの抵抗を減らしています。アマツバメ,アホウドリなどの鳥は,先端のとがった,細くて長い翼を持っており,そのような設計になっていると,渦はほとんど起きません。他の鳥,例えばオオタカ,ハゲワシなどは,大きな渦を作る,幅の広い翼を持っていますが,それらの鳥は,翼の先端,すなわち翼端部を,手の指のように広げることによって,これを防いでいます。それによって,そのずんぐりした翼端は幾つかの細くてとがった部分に分かれ,渦と抗力は減少するのです(4)。

8 飛行機の設計者はこれらの特色の多くを取り入れてきました。翼の湾曲のぐあいによって浮力を生み出せます。種々の下げ翼や突起を設けて,空気の流れを制御させ,またブレーキの働きをさせることができます。小型の飛行機の中には,平らな板を翼の表面に適当な角度で取り付けることによって,翼端の抗力を減少させているものもあります。しかし,飛行機の翼はいまだに,鳥の翼に見られる工学上の優秀さにはかないません。

9 凍結防止剤を用いる点でどんな動物や植物は人間に先んじていましたか。それはどれほど効果的なものですか。

9 凍結防止。人間は自動車のラジエーターに入れる凍結防止剤としてグリコールを用いています。しかし,ある種の微小な植物は,化学的な性質のよく似たグリセロールを用いて,南極の湖沼の中でも凍結を防いでいます。それは,零下20度の寒さでも生き延びる,ある種の昆虫にも見いだされます。自分自身で凍結防止剤をこしらえて,南極の極寒の水域で生きている魚もいます。ある種の樹木は零下40度の寒さにも耐えますが,それは,「氷の結晶がその周りにできやすい塵やほこりの粒のない,非常に純粋な水」を蓄えているためです。4

10 ある種のゲンゴロウは水中で呼吸するための仕掛けをどのように造り,また利用していますか。

10 水面下での呼吸。人はボンベを背中にくくりつけて,水面下に1時間ほどはもぐっていられます。ゲンゴロウ類の中には,もっと簡単な方法で,ずっと長く水の中にもぐっているものもあります。彼らは気泡をかかえて潜水するのです。その気泡は肺の役もします。それはその虫から炭酸ガスを取り去って水の中に散らし,水に溶けている酸素を集めて,虫はそれを用いるのです。

11 生物時計は自然界にどれほど広く見られますか。その例としてどんなものがありますか。

11 時計。人間が日時計などを用いるよりずっと前から,生物体内の時計は時を正確に刻んでいました。干潮になると,顕微鏡的な植物である珪藻は,ぬれた砂浜の表面に出て来ます。潮が満ちてくると,珪藻は再び砂の中にもぐってゆきます。しかし,潮の満ち干などのない実験室の砂の中でも,珪藻が持つ時計は,潮の干満の時刻に合わせて,珪藻を上がってこさせたり沈ませたりします。カニの一種であるシオマネキは,引き潮になると黒ずんだ色になって出て来ますが,満潮の間は明るい色になって自分の穴に引きこもっています。海から離れた実験室の中でも,シオマネキはなおも潮の変化に時を合わせ,潮が満ちたり引いたりする時刻に応じて色を明るくしたり暗くしたりします。鳥は,時の経過とともに位置を変えてゆく太陽や星を見ながら長い渡りをすることができます。鳥は,そうした変化に応じて補正される体内時計を持っているに違いありません。(エレミヤ 8:7)顕微鏡的な植物から人間にいたるまで,無数の体内時計が正確に時を刻んでいます。

12 人間がそぼくな羅針儀を用い始めたのはいつごろですか。それはずっと以前からどのように用いられていましたか。

12 羅針儀。西暦13世紀ごろ,人間は,鉢に入れた水の中に磁針を浮かせた,そぼくな羅針儀を用いるようになりました。しかし,それは決して新しい発明ではありませんでした。バクテリアは,羅針儀として用いるのにちょうど良い大きさの,線状になった磁鉄鉱の粒子を体内に持っています。これらが彼らをその好みの環境に導きます。磁鉄鉱は,鳥,ミツバチ,チョウ,イルカ,軟体動物など,他の多くの生物の体の中にも見いだされています。実験によると,伝書バトは,地球の磁場を知覚して元の場所に戻ることができます。渡りをする鳥が自分の方向を定める方法の一つはその頭の中にある磁気コンパスによることが,今では広く認められています。

13 (イ)マングローブは塩水の中でどのようにして生きることができますか。(ロ)海水を飲むことができるのはどんな動物ですか。どうしてそれを行なえるのですか。

13 塩分の除去。人間は,大規模な工場を建設して,海水から塩分を取り除いています。マングローブの木は,海水を吸い取っても,膜構造によって塩分をこし取ることのできる根を持っています。マングローブの一種,アビセンニアは,その葉の下側にある腺を用いて余分の塩分を除いています。カモメ,ペリカン,ウミウ,アホウドリ,ウミツバメなどの海鳥は,海水を飲みますが,その頭部にある腺で,自分の血液に入る余分の塩分を取り除いています。また,ペンギン,ウミガメ,ウミイグアナなども,海水を飲んで,余分の塩分を除くすべを知っています。

14 電気を起こす生き物としてどんなものがいますか。

14 電気。バッテリーで電気を起こすことのできる魚は500種類ほどいます。アフリカナマズは350ボルトの電気を起こし,また,北大西洋のオオシビレエイは,60ボルト,50アンペアの瞬間波動を出します。南アメリカのデンキウナギが出す衝撃は886ボルトもあることが測定されています。「魚類で,発電器官を持つ種を含んでいることが知られているものは,11の科に及ぶ」と,一化学者は述べています。5

15 動物はどんな様々な農牧作業を営んでいますか。

15 農場経営。人間は長年にわたって地面を耕し,家畜を飼ってきました。しかし,それよりずっと前から,ハキリアリは野菜の栽培をしていました。彼らは,葉っぱと自分たちの糞でこしらえた堆肥の中でキノコを育てて食物にするのです。アリの中には,アリマキを家畜にし,乳を絞るようにして,アリマキの出す甘い蜜を吸い,アリマキをかくまうための小屋を建てるものさえいます。収穫アリは地下の穀物倉にいろいろな種子を蓄えます。(箴言 6:6-8)ある種の甲虫はアカシアの木の枝おろしをします。ナキウサギとマーモットは干し草を刈り,保存処置をして,それを貯蔵します。

16 (イ)ウミガメ,アリゲーター,またある種の鳥は自分たちの卵をどのようにしてふ化させますか。(ロ)雄のツカツクリの仕事はどうして非常に難しいものと言えますか。どのようにしてそれを行なっていますか。

16 ふ卵器。人間は卵をふ化させるためにふ卵器を造りますが,この点で人間は先んじてはいませんでした。ウミガメとある種の鳥は自分たちの卵を温かい砂の中に産んでふ化させます。温かい火山灰の中に卵を産みつけて,そこでふ化させる鳥もいます。ワニの一種であるアリゲーターは時おり,自分の卵を腐りかけた草木で覆い,それで熱を発生させます。しかし,この点でエキスパートは,“ユーカリ鳥”(ツカツクリ)の雄です。その雄鳥は大きな穴を掘り,その中に植物質のものを詰め,その上に砂をかけます。草木の葉が発酵してその塚を温め,雌鳥は6か月間,毎週一つずつその中に卵を産みます。その間ずっと,雄は自分のくちばしを塚の中に突き入れて,その温度を調べます。砂を加えたり取りのけたりして,雄は,氷点下の気候から非常に暑い時季まで,自分のふ卵器を摂氏33度に保つのです。

17 タコとイカはジェット推進をどのように応用していますか。関連のない他のどんな動物もそれを行なっていますか。

17 ジェット推進。今日飛行機で空を飛ぶ場合,その飛行機はたいていジェット推進装置で飛行することでしょう。同じようにジェット装置で動き,幾千年もそのようにしてきた動物がたくさんいます。タコもイカもこの点で優れています。彼らは特別の袋の中に水を吸いこみ,その後,強力な筋肉でそれを排出し,その勢いで自分を前に進ませます。同じようにジェット推進を利用しているものとしては,オウムガイ,ホタテガイ,クラゲ,トンボの幼虫,さらには大洋のある種のプランクトンなどがいます。

18 照明装置を持つ多くの植物や動物の例としてどんなものがありますか。どんな点でそれらの照明は人間の造ったものより効率的ですか。

18 照明。電球の発明はトーマス・エジソンの功績とされています。しかし,それは熱のかたちで多くのエネルギーを失っているため,それほど効率的なものではありません。光を点滅させるホタルはこの点でもっと良い仕事をしています。エネルギーのむだのない,熱の出ない光を発生させているからです。海綿,菌類,バクテリア,種々の虫の仲間にも,明るく発光するものがいろいろいます。かぶと虫の幼虫で,“鉄道虫<レールロード・ワーム>”と呼ばれるものは,赤い“ヘッドライト”と,左右11対の,白または薄緑の“窓”を付けた模型列車が進んでゆくかのようです。魚類の中にも光を発するものが多くいます。その二,三の例を挙げれば,マツカサウオ,チョウチンアンコウ,ハダカイワシ,ホウライエソなどがおり,またホタルイカも知られています。波の砕ける海原では,幾百万もの微生物が光り,きらめきます。

19 人間よりずっと前に紙を造っていたのはだれですか。そのように紙を造る動物の一つは自分の住まいにどのように断熱処置を施していますか。

19 紙。エジプト人は数千年前にそれを造りました。それでもエジプト人は,アシナガバチ,スズメバチなどのハチの仲間よりずっと遅れていました。これら羽を持つ働き人たちは,古くなった木をよくかんで灰色の紙を造り,それで自分たちの巣をこしらえます。スズメバチは大きな丸い巣を木にかけます。その外側の覆いはじょうぶな紙を何枚も重ねたものですが,その紙の間は幾層もの断熱空気層になっています。これは,その巣に対して,厚さ40㌢のレンガ壁と同じほど,暑さ寒さの断熱効果を持つのです。

20 ある種のバクテリアはどのような方法で動き回りますか。一科学者はそれについてどのように述べましたか。

20 回転式エンジン。回転式エンジンの製作という点では,顕微鏡的な生物であるバクテリアのほうが,人間より幾千年も先んじていました。バクテリアには毛のような延長線が幾本もあり,それが絡み合って,コルク抜きのような固いらせんになっています。バクテリアはこのコルク抜きを船のスクリューのように回転させて前進します。そのエンジンは,逆回転させることもできるのです。しかし,それがどのような仕組みになっているかは,十分には理解されていません。一報告書は,バクテリアが時速48㌔相当ものスピードを出せることを伝え,「自然は事実上,車を発明していた」と述べています。6 一研究者はこう結論しています。「生物学における最も空想的なアイデアの一つが真実になった。すなわち,自然は回転式のエンジンをまさに生み出していたのである。それには,軸継ぎ手,回転軸,軸受け,回転力伝動装置などがことごとく備わっているのである」。7

21 全く関連のない数種のどんな動物が音波探知装置を用いていますか。

21 音波探知器。コウモリやイルカの音波探知の能力は,人間がそれをまねて造ったものより勝っています。細い針金を張りめぐらした暗い部屋の中でも,コウモリはその中を飛び回って,決して針金に触れません。彼らの発する超音波の信号がそれらの物体に当たってはね返り,コウモリは音響定位<エコーロケーション>によってそれらを避けるのです。イルカやクジラも水の中でこれと同じことを行なっています。アブラヨタカも,自分たちが巣にしている暗い洞くつを出入りする際にエコーロケーションを応用し,自分たちの導きとなる鋭いカチカチという音を出します。

22 潜水艇の応用している重量調節の原理が関連のない数種の動物にどのように作用していますか。

22 潜水艇。人間が発明するよりも前から多くの潜水艇が存在していました。顕微鏡的な生物である放散虫は自分の原形質の中に油の小滴を持っており,それを用いて自分の重量を調節し,海の中で上昇したり下降したりしています。魚類は浮き袋の中の気体を出し入れして,自分の浮力を変えています。オウムガイは,自分の殻の中に幾つもの部屋もしくは浮きタンクを持っています。オウムガイはそれらのタンクの中の水と気体の比率を変えることによって自分のいる深さを調節しています。コウイカの甲(炭酸カルシウムでできた体内の殻)にはたくさんの空洞があります。浮力を調節するために,この軟体動物は自分のその骨格から水を出し,からになった空洞に気体を満たします。こうしてコウイカの甲にある空洞は潜水艇の海水タンクと同じ役をしています。

23 熱知覚の器官を用いている動物としてどんなものがいますか。それらはどれほど正確ですか。

23 温度計。17世紀以来,人間は温度計を開発してきましたが,自然界に見られる幾つかのものと比べると,それらはそれほど洗練されたものではありません。カの触角は摂氏500分の1度の温度変化を知覚できます。ガラガラヘビにはその頭の両側に穴があり,それによって摂氏1,000分の1度の温度変化を感知できます。ボアはごく微小な温度差に対して35㍉秒で反応します。ツカツクリ,とりわけヤブツカツクリのくちばしは,摂氏0.5度の温度の違いを識別できます。

24 これらの例はどんな言葉を思い出させますか。

24 こうして人間が動物から多くの事を学んでいる事実は,次の聖書の諭しの言葉を思い出させます。「獣に尋ねてみよ。そうすれば,彼らはあなたに教えるであろう。野の鳥に尋ねてみよ。彼らはあなたに告げるであろう。はう生き物はあなたに諭し,海の魚はあなたに知らせるであろう」― ヨブ 12:7,8,モファット訳。

[研究用の質問]

[152ページの拡大文]

生物を模倣することは非常に広く行なわれており,その学問には特別の名前さえ与えられている

[153ページの図]

(正式に組んだものについては出版物を参照)

巣は蒸発の作用で冷房される

古くなった空気

外からの空気

地下の水

[154ページの図]

(正式に組んだものについては出版物を参照)

1 2 3 4

1 2 3

[155ページの図版]

気泡

[159ページの図版]

オウムガイの断面